NIPT陽性。羊水検査・絨毛検査、どちらを選べばよい?

相談

妊婦様からのご相談

NIPTの結果、陽性の項目がありました。
確定検査が必要とのことですが、「羊水検査」と「絨毛検査」はどう違うのですか?
どちらを受けてもよいのでしょうか?

ご相談をお受けして

NIPT(新型出生前検査)にて陽性項目があったとのことでお気持ちお察しいたします。
確定検査の必要性をご存知のようですので、「羊水検査」「絨毛検査」どちらを選べばよいのかについてご案内いたします。

結論から申しますと、どちらを受検されても構いません。
妊婦様にとって一番大きな違いは、受検期間でしょう。(後述ご参照)
なお、一般的には羊水検査よりも絨毛検査のほうが流産リスクが高いといわれますが、実際はそうともいえません。

「羊水検査」と「絨毛検査」どちらがよいのか

確定検査には「羊水検査」と「絨毛(じゅうもう)検査」があり、基本的にはどちらを受検していただいても構いません。
受検期間や検査結果までの日数等、それぞれの特徴を比較して検討されるとよいでしょう。

また、NIPTでどの項目が陽性だったかによって、どういった検査が適しているか異なる場合があります。
詳しくは『マイクロアレイとは?私に最適な解析方法はどれ?』をご参照ください。

簡単にお伝えしますと、早く結果を知りたい場合には「絨毛検査」が適しているでしょう。
微小欠失の項目で陽性だった場合には「羊水検査」が適しています。

(染色体の構造における細かな変化は、絨毛検査で検出できない可能性があるため。)

また、それぞれのリスクについては最も気になる点かと思います。
後ほど詳しくご説明します。

確定検査の概要

羊水検査も絨毛検査も、超音波で胎児の発育状況や位置を確認しながら母親の腹部に穿刺(せんし:お腹に針を刺すこと)するという点は同じです。※

「絨毛検査(じゅうもうけんさ)」では〝絨毛〟という、胎児の胎盤になる前の組織を採取します。
「羊水検査」では〝羊水〟から、羊水内の物質や胎児の細胞を採取します。
いずれも採取した胎児の細胞を培養(数を増やすこと)し、顕微鏡下で観察します。
(※絨毛検査については「経腹法」もしくは「経膣法」いずれかが採用されます。超音波にて胎盤の位置を確認し、どちらが最適か判断されます。)

所要時間

いずれも穿刺から採取までの所要時間はおよそ1~2分で、検査完了までは10~30分ほどです。
その後2時間ほど休み、出血や羊水の漏れ、子宮収縮がないことを確認します。
また、改めて超音波検査によって胎児が問題ないことを確認し終了となります。
一般的には外来でおこなわれますが、一泊二日の入院でおこなうこともあります。

受検期間

受検期間は以下の通りです。

絨毛検査……妊娠10~14週
受検から結果までおよそ2、3日~2週間 
羊水検査……妊娠15~18週
受検から結果までおよそ1~4週間 
※結果通知までの日数は解析方法によって異なります。

絨毛検査は早期に受検できる点が大きなメリットです。
ただ絨毛検査は技術的に難しく、あまり普及していないのが現状です。

流産のリスク

一般的に羊水検査・絨毛検査、いずれも流産のリスクがあるといわれています。
直接腹部に穿刺するため、穿刺箇所からの出血や合併症を引き起こすリスク等が全く無いわけではありません。(下記ご参照)

しかし実際には、最新のデータに基づき〝その時期に起こる自然流産の頻度と比較してリスクが増すとは言い難い〟と考えられています。
つまり、羊水検査や絨毛検査自体が危険な検査というわけではないのです。

ただし、医師の熟練度によってはリスクがあるといわれています。
豊富な実績のある施設や医師の元で受検されることが大切です。

絨毛検査による流産のリスク

絨毛検査による流産のリスクは、羊水検査のおよそ10倍(1%)といわれることがあります。
こちらは一概に正しいとは言えず、理解には注意が必要です。
では「絨毛検査の流産リスクが高いと思われている理由」はいったい何でしょうか。

以下の3点が考えられます。

1点目は、絨毛検査は技術的に難しく、日本ではあまり普及していないためです。
絨毛検査を見たことさえない医師も多いといわれています。
国内における確定検査の99%が羊水検査であるという点からも、絨毛検査の普及率の低さがお分かりいただけるでしょう。

2点目は、羊水検査と絨毛検査は受検時期が異なるためです。
絨毛検査は羊水検査の10倍の流産リスクとされていると前述しましたが、この数字は単純に比較できるものではありません。

胎児に染色体異常があった場合、妊娠初期の段階で流産に至ることが多いといわれています。
つまり「妊娠初期の絨毛検査」と「妊娠中期の羊水検査」では、絨毛検査の流産率のほうが高く出るのは当然なのです。

3点目に、流産の原因が絨毛検査だったのか否かは、確かめようがないためです。

そのため、〝絨毛検査を受けたうえで流産に至った方々〟と、〝同時期に絨毛検査を受けずとも流産に至った方々〟との割合を比較することで絨毛検査が原因と思われる流産率を検討します。
2019年(米国)には、絨毛検査を経た妊婦様の流産率は1.39%でした。
同時期に、絨毛検査を受けずとも流産に至った割合は1.23%でした。
その差は0.16%です。
つまり、絨毛検査を受けて流産に至った方は、絨毛検査を受けずとも流産に至った方より0.16%高かったということです。

したがって、絨毛検査が原因で流産に至ったと考えられるのはおよそ1,000回に1、2回だといえます。

羊水検査による流産のリスク

一般的に「羊水検査の流産率は300回に1回(または0.3%)」と説明されることが多いのですが、こちらのご理解にも注意が必要です。

胎児に染色体異常があると、羊水検査の受検をしてもしなくとも、羊水検査の受検期間にちょうど寿命を迎えてしまうということがあります。
そのような自然流産の可能性も含めた頻度が300回に1回というデータなのです。

羊水検査を受ける理由の大半は〝妊婦検診で指摘された為〟や〝NIPTにおいて陽性(つまり染色体異常をもっている可能性があると考えられる状態)だった為〟です。
つまり、自然流産に至る可能性が元々あった方々が羊水検査を受検されているという点を踏まえて、リスクを理解する必要があります。

また、(絨毛検査のリスク同様)流産した後にその理由が羊水検査によるものだったかどうかは確かめようがありません。

そのため〝羊水検査を経たうえで流産に至った方々〟と〝同時期に羊水検査を受けずに流産に至った方々〟の割合を比較して羊水検査の流産率を検討します。
その結果、最近の報告では羊水検査が原因と考えられる流産率は0.1%、つまりおよそ1,000回に1回であることがわかりました。
(1980年代では1%、2006年は0.06%、2008年は0.13%)

したがって、近年では「羊水検査自体にリスクがあるとは考えなくてよい」とされています。

確定検査(絨毛検査・羊水検査)による流産のリスク

以上のことから、「確定検査の流産リスクについて」はこのようにまとめられます。
⚫︎絨毛検査・羊水検査、どちらの確定検査をお受けいただいても、その時期の自然流産率とあまり変わりません。
⚫︎ただし、頻度は低くとも0ではないため、リスクを伴う検査(侵襲的検査)とされています。
⚫︎安心してご受検いただくためにも、経験豊富な医師や施設の元で受検されることが重要です。

まとめ

確定検査には流産リスクを伴うことが広く知られています。
流産のリスクやお腹に穿刺するという恐怖心から、確定検査は受けないという妊婦様が稀にいらっしゃいます。
つまり、NIPTの結果だけで妊娠の継続か中断かを決定されるということです。

NIPTの検査精度は99.9%とよく耳にするため、NIPTの結果は99.9%正しいと誤解されがちです。
99.9%とは、陰性であった場合の的中率です。
陽性であった場合の的中率は、陽性の項目や個人によって様々です。
NIPTによる陽性が間違いで、赤ちゃんに何の染色体異常もない(=偽陽性)というケースは実際にあります。
その割合をご存知でしょうか。

染色体異常において発生頻度の高い、三大トリソミーにおいて見てみましょう。

⚫︎21トリソミー(ダウン症候群)
偽陽性数23 / 陽性者数700  偽陽性の発生率3.2%
⚫︎18トリソミー(エドワーズ症候群)
偽陽性数35 / 陽性者数366  偽陽性の発生率9.6%
⚫︎13トリソミー(パトー症候群)
偽陽性数46 / 陽性者数114 偽陽性の発生率 40.4%
全検査会社検査データ結果 65,265例中の集計(2018年9月まで実施分)NIPTコンソーシアムより
ご参照:NIPT陽性。赤ちゃんに障害があるということ?にて解説しております。

項目によって数字に幅はありますが、決して低い数字とはいえません。

一方、羊水検査や絨毛検査(=いずれも確定検査)の流産率は、その時期の自然流産と比較しておよそ0.1%(およそ1,000回に1回)です。

確定検査の流産リスクばかりが謳われているため、妊婦様の意識がそちらに向いてしまうのは当然かもしれません。
ですが、実際には染色体異常が無いにも関わらず、中絶を決定してしまうリスクのほうがはるかに高いのです。
NIPTで陽性と出ても、確定診断がいかに大切かご実感いただけたのではないでしょうか。

また、NIPTの結果のみで判断される方の理由には、年齢的に妊娠可能なリミットを考えると羊水検査まで待てなかったから、というものも見受けられます。
確かに不安な心境で待つには、非常に長い期間だと思います。

仮にNIPTを10週で受検されたとして、羊水検査が受検できるのは15週目以降です。
受検から結果が出るまでにも日数を要します。
万が一陽性が確定した場合には、妊娠の継続か中断かを考えられる期間(21週6日まで)も短くなるということです。
それらを考慮しますと「羊水検査まで待っていられない」とお考えになるのは無理もないことなのかもしれません。

ただ、もうひとつの選択肢として〝10週目から受検できる絨毛検査もあること〟も、もっと多くの受検者様にお知りいただきたいと感じています。
その上で妊婦様がどうなさるのか、それは妊婦様のお考え次第であり、尊重されるべきものでしょう。

コロナ禍やつわりの大変ななか、一生懸命お腹の赤ちゃんに心を配られていることと思います。
そのうえNIPTの陽性という結果は、あまりに大きくのしかかるショックだろうとお察しいたします。
おひとりで、もしくはパートナー様とおふたりで抱えるには、重く難しい問題です。
専門家としてお力になれることがあるはずですので、ご不安なことを何なりとお聞かせください。

ご一緒に考えていきましょう。

ご参照
マイクロアレイとは?私に最適な解析方法はどれ?


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(ヒライシ タカヒサ)


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