妊婦様のご状況
親族に自閉症(自閉症スペクトラム障害)のお子様がいて、ご自身の赤ちゃんのことも心配されている。
妊婦様からのご相談内容
姪っ子が普通学級で対応できないくらいの自閉症です。
NIPT(新型出生前検査)で自閉症の可能性もわかりますか?
ご相談をお受けして
1. NIPTで自閉症の可能性はわかる?
ご親族に自閉症(自閉症スペクトラム障害)のお子様がいらっしゃるということで、親御様の大変さを間近で感じておられることでしょう。
お気持ちお察しいたしますが、結論から申しますとNIPTで自閉症の可能性を判断することはできません。
(⇒4.自閉症はいつどのようなタイミングで判明する?)
2. 「自閉症スペクトラム障害」とは?
自閉症は発達障害のひとつです。
[発達障害]
「発達障害」とは発達に問題のある障害の総称。
生まれつきの思考や行動の特性で、
・感情のコントロール
・物事への集中
・他人の表情から感情を理解する
等がうまくできない。
症状は低年齢からみられ、個性や性格に近いもの。
[自閉症スペクトラム障害]
「自閉症スペクトラム障害」とは発達障害のひとつで、「自閉スペクトラム症」、「ASD」とも呼ばれる。
・「自閉症」
・「高機能自閉症」
・「アスペルガー症候群」
・「特定不能の広汎性発達障害」
等を総称して「自閉症スペクトラム障害」と呼ぶ。
これらに共通する特徴として
・コミュニケーション(対人関係)における障害
・興味や行動への強いこだわり
が挙げられる。
なお、上記の2つの特徴をもつのが自閉症スペクトラム障害であり、どちらか一方だけでは自閉症スペクトラム障害と診断されません。
近年ではおよそ20〜50人に1人の子どもが自閉症スペクトラム障害という診断を受けています。
診断を受けていない子どもや大人も含めると10人に1人というでデータもあり、私たちの身近でもありふれた障害だといえます。
また、自閉症スペクトラム障害は外見からは分かりにくく、その症状や困りごとは十人十色です。
3. どのような特性がある?
では具体的にどのような特性があるのでしょうか。
・言葉の遅れや、言葉による指示が理解しづらいことがある
・具体的に示され、納得できた決まりごとを守るのは得意
・自分の思いが叶わないと感情が爆発しやすい
・見通しの立たない状況での不安が強いが、見通しが立つときはきっちりしている
・空気を読んだり臨機応変に対応したりすることが苦手
・表情や態度から相手の気持ちを汲み取ることが苦手
・感覚過敏により、大勢の人がいる場所や気温の変化などにストレスを感じる
・自分が体験したことが絶対的真実だという考え方をする(体験記憶>概念理解)
個人差はありますが、一般的にはこのような特徴が挙げられます。
4. いつどのようなタイミングで判明する?
自閉症スペクトラム障害は、NIPT(新型出生前検査)で明らかになるものではないとお伝えしました。
では、どのようなタイミングで明らかになるのでしょうか。
例えば、お母様が小児科や保健センターに問合せて発達検査に繋がるケースもあれば、学校や幼稚園の先生から勧められて検査されるというケースもあります。
大人になり、仕事や人間関係に悩んで病院を受診されるケースも増加しています。
なお幼少期ですと、主に
・1歳半、3歳のタイミングでおこなわれる「乳幼児健康診査」
・小学校にあがる前の秋頃おこなわれる「就学時健康診断」
・保育園、幼稚園の登園後や降園後
等のタイミングで、「お子様の発達面に気がかりな点があります」というようなお声かけをされることが一般的です。
とはいえ、親御様にとってはある日突然、お子様の受診や支援を提案されるわけです。
ショックで受け入れられない親御様が多いようですが、無理もありません。
私にも経験があるのですが、子どもを否定されたかような衝撃と戸惑いがあり、しばらくは行動に移せませんでした。
ただそこで一歩を踏み出せるかどうかが、後々のお子様の人生に大きく影響するようです。
5. 自閉症スペクトラム障害」と診断されたらその後どうなる?
専門機関等において受診・診断がなされたら、それ以降は親御様同意のもとで支援が開始されます。
(支援センターや民間の療育スクールでも支援に繋がる発達検査を受けることは可能ですが、診断はできません。はっきりとした診断をご希望の方は発達専門の病院を推奨しますが、病院で診断がつかないこともあります。)
自閉症スペクトラム障害は治療で治せるものではありませんが、ひとりひとりに合わせた学びの機会をもつことで、生活上の困難を減らす助けになります。
学びの機会とは、具体的に「療育」と呼ばれる支援です。
[療育(治療教育、発達支援)]
「療育」とは、ひとりひとりの発達の状態・特性に応じて、今の困りごとの解決や、将来的な自立・社会参加を目指し行う支援のこと。
主に、人との関わり方を学びます。
心理士や作業療法士などの専門家と1対1(個別療育)、もしくは少人数のグループ制(集団療育)で課題に応じた遊びや作業をおこないます。
(詳しくは後編をご覧ください。)
そのような体験を通して、集団生活におけるルールを学んだり、コミュニケーション能力を身につけたりしていくのです。
また、療育(発達支援)は発達支援センター等の公的な施設や民間の施設、クリニックに併設された施設で提供されています。
なお、症状が軽いからと対応をしてこられなかったお子様、症状が重いけれど幼少期から療育(発達支援)を受けてこられたお子様。
青年期や社会人になってから苦労しておられるのは、意外にも前者なのです。
(こちらも詳しくは後編にてお話しております。 )
したがって療育(発達支援)を受けられる場合は、症状の軽重に関わらず早い段階からの開始を推奨します。
Topic:小学校では通常学級?特別支援学級?
ご相談の妊婦様は、姪っ子さんが通常学級で対応できないほどの症状であるため、お腹の赤ちゃんのことも心配ということです。
就学前から早期療育を開始された場合、就学後に何の問題もなく過ごせているという子どもはたくさんいます。
ただ、通常学級で過ごすことがベストとも限りません。
保護者のなかには、なんとしても通常学級に通わせたいと望まれる方がいます。そのお気持ちもわからなくはありません。
しかし本人にとって、無理して周囲に合わせなければならない環境で過ごす6年間だとしたら、どれほど苦しく長い期間でしょう。
自分を理解し、特別な配慮をしてもらいながら過ごせる特別支援学級※(または特別支援学校)のほうが、自分らしく、また穏やかに過ごせる場合があります。
通常学級が「厳しいから」ではなく、特別支援学級(または特別支援学校)の方がより「合っているから」と前向きな意味合いで考えるとよいのかもしれません。
また、お子様にはどのような環境が適しているか、療育の際に専門家の意見を聞くというのもひとつでしょう。
子どもの気持ちや居心地を最優先に、ゆっくりご検討いただけたらと思います。
※特別支援学級は、学校によって、養護学級、育成学級、心障学級、障害児学級、実務学級、学習室、総合学級、個別支援学級、なかよし学級、あすなろ学級、ひまわり学級、あおぞら(青空)・おおぞら(大空)学級、ふれあい学級など、さまざまな呼び方がある。また、「特学」や「特支」と称することもある。 〜Wikipediaより〜
6. 療育のゴールは?
なお、療育の目的は「その年齢で期待される標準的な行動ができるようになること」ではありません。
「日常生活を送りやすくするための方法を子ども自身に学んでもらうこと」が目的です。
社会生活におけるお子様の困りごとがなくなれば、療育の卒業となります。
ご相談をふりかえり
この先お子様がお生まれになり、共に日々をお過ごしの中で、発達に関して懸念される日がくるかもしれません。
子どもの発達に不安を感じたら
お子様の発達に関するご心配がありましたら、まずは通われている「幼稚園や学校の先生」にご相談いただくことを推奨します。
集団生活における普段の様子を第三者目線でいちばんよく見ているのは、担任の先生であることが多いためです。
もしくは、小学校の場合は「巡回のスクールカウンセラー」や「心理士の先生」も、プロとして相談に応じてくださる頼れる存在です。
「かかりつけ医」や「自治体の発達相談窓口」、「療育機関」でもよいでしょう。
不安を聞いてもらうなかで対応のヒントが得られるかもしれませんし、必要があれば専門機関に繋いでもらえる機会にもなります。
療育という発達支援についてご案内してきましたが、お忙しい日々の中、長期間に渡る療育機関への送迎だけでも親御様にとっては労力の要ることです。
ですが長期的視野に立った切れ目のない療育(発達支援)によって、お子様は変わります。
療育を経た数年後、見違えるように成長されたお子様の姿にきっと驚かされることでしょう。
「あのとき一歩を踏み出して良かった」と思われる親子のお姿を心から願っております。
また、ご相談者様は妊娠中でいらっしゃるので、お子様が自閉症スペクトラム障害かどうかまだ何もわかりません。
生まれてこられたお子様がもしそうであったとしても、手厚い支援があるのだとご安心していただけましたら幸いです。
さて、ここまで前編としてお届けいたしました。
後編ではさらに
・「療育」では具体的にどのようなことをするのか
・不登校や抑うつ症状等の「二次障害」が深刻化している
・ 症状が軽くても療育が必要とされている
等についてを中心にお話いたします。
後編はこちら⇒『自閉症(発達障害)が心配です。〜後編〜 症状が軽度でも療育は必要?二次障害とは?』
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