はじめに
妊娠中は、お口の中を清潔に保つことがこれまで以上に大切です。
お母さんのお口の中にいる歯周病菌は、血流の流れを通じて胎盤や子宮に届いてしまうことがあります。実際に、羊水からお母さんの歯周病菌が見つかったという報告もあります。
羊水はお腹の中の赤ちゃんが取り込むものでもあるため、お母さんがお口の中の環境を整えておくことは、赤ちゃんの健康を守ることにもつながります。
妊娠中に口腔内リスクが増えるのはなぜ?
妊娠すると、お母さんは体の変化とともにお口の中の環境も大きく変化します。特に、歯周病や虫歯のリスクが高まることが分かっています。
※歯周病……歯を支える歯肉や骨などが炎症や破壊を起こす病気。原因は不十分な歯磨きにあり、歯垢の中にある「歯周病菌」の繁殖によって引き起こされる。
妊娠中にお口の中の環境が悪化する原因は、主に3つです。
①ホルモンバランスや免疫力の低下
②食生活の変化による栄養の低下
③つわりによる口腔ケアの困難さ
これらによって歯周病菌が増殖することが分かっています。
赤ちゃんにどのような影響があるの?
歯周病菌は子宮の収縮や子宮頸管(しきゅうけいかん)に影響を及ぼし、早産(※1)や低体重児(※2)のリスクを1.5〜2倍に高めます。
※1 早産……妊娠22週0日〜36週6日での出産
※2 低体重児……出生時の体重が2,500グラム未満の赤ちゃん
早産で生まれると免疫系の発達が不十分であるため、感染症にかかりやすくなります。また、出生直後から「新生児集中治療室(NICU)」に長期間入院が必要となるケースや、合併症を発症するケースもあります。
参照:MSDマニュアル家庭版
また、赤ちゃんにとって、胎内で過ごす1日は出生後の4日分に相当するとも言われています。正産期※までお母さんの胎内で育てることは、赤ちゃんの健康に直結するというわけです。そこにお母さんのお口の環境が大きく関係しているということは、あまり知られていないかもしれません。
※3 正産期……妊娠37週0日から41週6日までの期間。この期間に生まれた赤ちゃんは十分に成長しており、母体外での生活に適応しやすい。
今日からできる具体策
つわりが重い方向け
最もお手軽なのは「うがい」
口腔ケアの大切さを理解しつつも、つわりの度合いによってはそれが一苦労です。
そのような時は無理をせず、複数回のうがいを心がけると良いでしょう。効果的なタイミングは、爆発的に口腔細菌が増殖している1. 寝起き、2. 食後、3. 就寝前です。
少しだけ食生活を改善してみる
また食生活の見直しも、口腔トラブルのリスク軽減に効果的です。具体的には
1.良質なタンパク質を意識的に摂取すること
2.マヌカハニー(蜂蜜の一種)を摂取すること
3.糖分の摂取を控えること
です。
糖分の摂取量を抑えることが虫歯予防に役立つことはよく知られていますが、タンパク質の摂取はお口の中の環境にどう関係するのでしょうか。
良質なタンパク質がもたらす効果
鶏肉、魚、大豆等の良質なタンパク質は、強い歯を作ることに役立つと共に、歯周病菌の撃退にも役立ちます。なかでも鶏胸肉やささみは弾力があり噛む回数が増えることからも、お口の中の健康を保つためにお勧めの食材とされています。
参照:LDK2025年7月号 晋遊社
マヌカハニーがもたらす多くの効果
また、マヌカハニーは蜂蜜の一種で、虫歯の原因となるミュータンス菌の抑制に役立ちます。さらに、口臭予防や整腸作用(悪玉菌を減少させ善玉菌を増やす)、ピロリ菌・大腸菌・黄色ブドウ球菌・インフルエンザウィルスの増殖を抑制する働きも確認されています。
1日にティースプーン1杯で多くの効果を期待できる点や、ノンカフェイン紅茶やヨーグルトに混ぜる等して、妊婦様がお気軽に摂取できる点でもお勧めです。
※赤ちゃんの蜂蜜摂取は危険ですのでお避けください。
無理なくできる範囲で
とはいえ、これらの摂取を日々のルールにする必要はありません。妊娠中は匂いや味を繊細に感じる期間です。食べられるものを食べられる時に摂っていただくことが、何よりも最優先です。
つわりが軽い方向け
歯磨きがご負担でなければ、以下のポイントを心がけると良さそうです。
より効果的に歯を磨くには
・歯ブラシを定期的に新しいものに交換する
(歯垢除去率がアップする。)
・ワンタフトブラシの活用
(毛先が円すい状に尖っているため奥歯の溝や歯間を磨くのにも適している。まとめ買いしておけば赤ちゃんの乳歯を磨く際等、子どもから大人まで使える。)
・フッ素入り歯磨き粉を使用する
・デンタルフロスや歯間ブラシを併用する
(ゴム製フロスは歯垢除去率が低い傾向。)
・舌ブラシを併用する
(こちらは柔らかいゴムやシリコン製が最適。)
デンタルグッズの併用効果
歯ブラシのみで磨いた場合と、他も併用した場合で、歯垢除去率にどれほどの差が出るのかを調査した結果があります。
▶︎歯ブラシのみ──58%
▶︎歯ブラシ+デンタルフロス──86%
▶︎歯ブラシ+歯間ブラシ──96%
参照:「Interdental Brush と Dental Floss の清掃効果について」 著:山本昇ほか
歯ブラシのみで約6割だった歯垢除去率が、歯間ブラシを併用することで約9割強まで上昇するそうです。
毎日の併用が理想的ですが、一日おきや週に一度でも、取り入れてみる価値は十分にありそうです。
舌ブラシが効果的
さらに、1日1回の舌ブラシも効果的です。舌ブラシは歯ブラシよりも素材が柔らかく、歯周病や口臭の原因となる細菌や舌苔を効率的に取り除いてくれます。
・舌ブラシを用いる
(舌を傷つけてしまうと逆効果となるため)
・1日1回にとどめる
(やり過ぎは逆効果)
・使用のタイミングは起床後や歯磨き前
(歯磨き後の使用は口臭を悪化させるとする説も)
歯ブラシや歯間ブラシ、舌ブラシ等いろいろありますが、いずれも使用後によく水洗いし、しっかりと乾かしきることが大切です。半乾きの状態は雑菌を繁殖させてしまうためです。
最近では歯ブラシ類を紫外線消毒するケースも販売されていますが、熱湯消毒も効果的です。
(耐熱温度をご確認の上、火傷にご注意しておこなってください。)
お口に入れる道具ですので、清潔に保つことが大切です。
水分補給も効果的
最後に、最も簡単な口腔ケアをお伝えします。それは「こまめな水分補給」です。
こまめな水分補給は細菌の繁殖を抑える効果があります。但し、糖分を含んでいるドリンクは逆効果となるため、水分補給としては水やお茶が最適です。
今回は妊娠中でもすぐに実践できる口腔ケアについてお話しました。気が向いた時にできる範囲でお試しいただき、お母さんも赤ちゃんも健康でいていただけるよう願っています。
ご感想をお聞かせください